スタジオジブリ、「風立ちぬ」を観ました。
ここ数回分の新作をスルーしていながら、今回は実在の人物をモデルにしているということがあって、公開日を指折り数えて待っていた作品です。
(ポニョあたりとか未だに観てない…)

公開日に観ましたよ。さすがの動員力、ものすごい人でした。

事前知識として、
・主人公・堀越二郎は、ゼロ戦を作った人であること
・関東大震災の描写がある
くらいにとどめて、予告動画を観たくらいで行ってきました。

感想をいくつか。



安心して観ればいいと思うよ

ジブリで戦争映画といえば「火垂るの墓」がありますね。
私はかなり覚悟を決めないと観れない感じです。(辛すぎるから)

あと震災以降、監督は反原発の体制を公表していたので、
(堀越二郎という)素材が素材だけに、今回も痛い・辛い描写があるんじゃないか?と覚悟を決めて臨んだんです。
しかし今回は当然戦争という影はあるものの、もっと違うものを伝えようとしているなというのが途中で分かって、
結構ほっとしました。

飛行機を描くシーンや、
カプローニ氏との夢での邂逅シーンは、本当にジブリらしい。
監督の飛行機愛がじわじわ伝わってきますw

でもそのままファンタジー路線で行くのかと思いきや、
現実からはけして離れていかない。
夢の話は夢として留まり、物語は淡々と進んでいく。

あーこれきっと、冒険活劇を期待している人(特に子連れ)にはもの足りないんじゃないかな、
と思いつつ観ていたら、後半からはそれが確信に変わりましたねー。
基本は大人に対して作った作品じゃないかなと。
わたくし、ストーリー後半ははっきり行って涙にくれました…。

いや最近「さあ、ここで泣け、泣け!」と狙ってくる作品がどうにもダメで、
“悲しさ”を強調されるのが気持ち悪いんですよね。
この作品はそんな安wっぽいことしない。
淡々と、二郎とその妻、菜穂子の幸せだけを描く。
これ、妻という立場にいる者としてはもう耐えられなかったです…。
(おかげでちょっとあやふやな個所がありましたよ…。もう一度観たい…)

映画館だと、やはりお連れさんのいる女性が涙腺崩壊していたみたいでした。
監督メェェ、乙女だなチクショォォと観た後に毒づいてみたり。
観た後も1週間は、思い出してはじんわり泣きそうになったり。
女性じゃないのにあの描写はすごすぎると思うんだ…。

人が人を想うことって、本質は時代が経っても変わらないんだナァ、
それがすごく良かった・安心したというのが一番最初の感想ですね。


堀越二郎という人物

主人公・二郎ですが、ま~何と言うか、朴訥としているのに素敵で魅力的な人でした。

弱きを助け、強きをくじく。助けても名乗らずにそっと立ち去る。
戦前を生きた人は(私の周りでは)とても素敵な方が多いですが、
当時の方にとってはそれが当然だったのかもしれませんねえ。

エンジニアとしての二郎も大変魅力的でした。
戦時中の国家予算における軍事費用と言えば、そりゃあもう今からじゃあり得ないほどだったそうですが。
(作中にも、飢えた子どもがいるのに自分が飛行機を作る意味ってなんだ?という描写がある)

それでも青天井に予算をかけられるわけではないから、制約がある。
でも要望は多い。
自分の作りたいものが、必ずしも作れるわけではない。
今でもよくあり得る光景です。
二郎は、それに対して全力を尽くすことを忘れない。(しかも仕事も早い)

さらには、失敗しても諦めない。
飛行機が落っこちて大破する描写がありました。
その局面ですら、「これから無限の可能性がある」と言い切ることができる。

そして何より「美しい飛行機をつくる」という夢があって、それを忘れない。

今は時代は変わりましたが、エンジニアとしてのその姿勢について、
私も襟を正さなくては、という思いでいっぱいでした。


「創造的人生の持ち時間は10年だ」

…なんだそうです。

作中ですと二郎は、エンジニア5年目になったところでプロジェクトリーダーに抜擢されます。
そして歴史に残る名機を作る。

約束された10年後、カプローニ氏とその結果を振り返っています。
「美しいものを作れたか?」
この辺りになると、夢なのか想像なのか、心理描写なのかは分からないですが。

デザイナーのはしくれとして、
同じようにその時が来たら、何と回答できるかしらん…。


監督のメッセージって

実在の人物でありながら、監督の妄想芸術的創造も多分に含まれた本作。
最後まで、私は監督が何を言いたいんだろう?と考えていました。

反戦でもなく、素敵なラブストーリーでもなく、現実から離れたファンタジーでもない。
感じたのは、関東大震災はいまの東北大震災となぞらえている気がしたこと。

私は、「こういう人が、同じような時代を、1人の人間として、こういう風に生きたけどどう思う?」というメッセージを受け取りましたよー。